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オート・パイロット

昼の12時。喫茶店にて。70代の男性と、30歳前後の男性が向かい合っている。若い男性はスーツを着て、「営業」という出で立ちであった。老人は普段着のようであるが、清潔そうな服装をしており、知的であった。

若い男は言う。

「どれだけこの時間を楽しみにしてると思ってるんですか(笑) 一人で飯なんて食ってられないですよ」

前後の文脈はわからないが、上手い。老人には「全体」の意図はわかっているのだろう。それでも、これは嬉しいだろうと感じる。すべてが嘘ではないことは十分に伝わる。

老人の携帯に電話がかかってきた。友人からのようである。北海道からでは飛行機が飛ばないだろう、というような話をしている。

その間に若い男も電話をかける。こちらの相手は仕事仲間であろう。同僚か、後輩か。しかし、上から目線の話し方はしない。まず、少し笑いを誘うような他愛のない話を振り、相手の状況を丁寧に聞き、まるで雑談のような流れの中で意図を滑りこませている。おそらく電話の相手は男性であるが、まるで女性を口説くときのようなやり方であった。

上手い。これは上手い。

老人は電話を切る。ほぼ同時に若い男も電話を切る。

その後、老人が、家ではネットで麻雀ゲームばかりやっているのだ、という話を自嘲気味にした。若い男は少し間を置いて、

「玄人の力を見せつけるわけですね」

と言った。老人は照れたように顔をほころばせた。

この若い男には本当に舌を巻く。凄いとしか言いようがない。

間を溜めすぎてはいけない。傷つけてしまうような言葉を削除している時間と受け取られかねない。かといって、間髪を入れずに反応してもいけない。それでは、反射で応えるストックフレーズだと受け取られてしまう。この微妙な間は、「ただ言葉を配列するのに要した時間」であることが示されなければならない。

若い男はツボをおさえている。無駄な世辞はない。本当に感じたことしか口にしていない。しかもそれが、相手を傷つけないようにとか、そういう意図を一切感じさせない。そんなものはとうの昔に「自動で避けられるようになっている」ようであった。

おそらく商談なのであろうが、売り物の内容には一切触れていない。売り物のことなどどうでも良いかのようである。そして老人の方から「明日、12時に私の家に来れば良いじゃないか。その時に用意するよ」と言うのだった。おそらく成立である。にも関わらず、若い男は「いいんすか? じゃぁ…」と言う程度で、まるで友人の家に遊びに行くかのようである。

しかし、何故だろう。どうして「カラ」のような感じがしたのだろう。若い男の中で、何かがフリーズしているような、奇妙な印象がつきまとった。

ならば、「空虚ではない会話」とは何なのか。私が行う会話は空虚ではないのか。

結局その若い男に、私自身のある部分の性質を誇張して見ていただけなのかもしれない。そして老人に、老いた私を重ねていたのかもしれない。

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