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勇気

「おい! こうやって人が来たら、どくとか避けるとか、考えろ! 何も考えてないのか? えぇ? これだけ言われても動かないのか? まったく最近の若いもんは…」

朝、混んだ電車の中。駅でドアが開く。優先席の方へ入って来た70歳ぐらいの老人だった。優先席の前に立っている大学生ぐらいの男性に向かって息巻いている。学生は少し後ろを向いたが、頑なに動かなかった。混んでいたので、動いたとしても大した隙間は開かなかっただろうけれど。

老人はブツブツ言いながら、車両連結部のドアを開け、その中に入った。ドアの窓から、先ほどの学生を睨みつけてブツブツ言っている。

朝早く、この老人はどこへ行くのだろう。誰かを好きになったことはあったのだろうか。誰かを愛することはあったのだろうか。傷つくのが怖かったのだろうか。誰も相手にしてくれないことに怒りを感じているのだろうか。死が迫ってきていることに不安を感じているのだろうか。

寂しいのだろう。話しかけて欲しいのだろう。寂しいのだと、話しかけて欲しいのだと、そのまま言えたら何か変わっただろうか。変わったかもしれない。変わらなかったかもしれない。

私が誰かに対して怒るとき、そのほとんどが寂しさのせいであった。私に「寂しい思いをさせたこと」に対して怒っている。しかし、それは怒りなのだろうか。寂しさをごまかすために力んでいるだけのようにも思える。

力んで、怒って、寂しさはどうにかなるだろうか。寂しさは、誰かと一緒にいなければ解消されないようには思う。しかし、怒りは人を遠ざけてしまう。

狭く暗く不安定な連結部の小部屋に入って、窓越しに誰かを睨んでいるとき、私ならどんな気持ちがするだろう。本当は泣きたくなるのではないか。寂しくて、悲しくて、どうしようもなくなるのではないか。

どうしたら良かったのだろう。どこで道を間違えてしまったのだろう。

勇気がなかった。自分の時間を、自分の空間を、誰かのために使うことが惜しかった。本当は、その時間と空間を満たすためには、自分の時空を誰かに使わなければならなかった。しかし、目先のことにしか気持ちが及ばなかった。

作業の手をとめて、人の話に耳を傾けることだった。酒を飲む金で土産を買って帰ることだった。見たいテレビを少し我慢して、ほんの少しでも一緒に遊ぶことだった。

本当に微量なものの積み重ねでしかなかった。しかし、その微量なものを積み重ねていく勇気が持てなかった。「もう手遅れだ。巻き返しはできない。今までずっとやらずに来てしまったのだから」。しかし、手遅れだと思わないものなど一つもない。だからこそ、勇気は少数の者にしか発揮できない。

分かれ道は毎分、毎秒訪れている。どこかに大きな分かれ道があるわけではなかった。知らぬ間に、身の回りには誰もいなくなっていた。金で買える人間関係以外、何も残らなかった。

どうしたら良かったのだろう。どうすれば良いのだろう。

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