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怒りと気苦労について

心理学科卒業のものとして多少恥ずかしいが、ウィリアム・ジェイムズを初めて読んだ。少々気になる部分を引用する。

ウィリアム・ジェイムズ『宗教的経験の諸相 上』岩波文庫 pp.274-276

〈ホレース・フレッチャー氏はその『精神治療』Menticultureという小さい本のなかで、ある友人と、日本人が仏教の戒律の実践によって体得する自制について語り合ったとき、その友人が次のように語ったと述べている。
 「『君はまず怒りと気苦労を取り除かなければならない。』私は、『しかしそんなことができますか?』と言った。すると彼は、『できます。日本人にはそれが可能なのです。ですから私たちにも可能であるはずです』と答えた。/…『もし怒りや気苦労を取り除くことが可能であるのなら、どうしてそもそも怒りや気苦労をもつ必要があるのか?』この論証の強さを私は感じた。…以前には不愉快さやいら立ちの源泉となったものすべてが、以前とまったく同一なのに、それらに出会っても、私はちっとも無礼だとは思わない。…私はたいへんおもしろい愉快な旅行になることを期待して、汽車に乗ることにしていたのに、私の手荷物が届かなかったので、列車は私をおきざりにして発車してしまったが、私は汽車がステーションから出てゆくのを見送りながら、腹だったり、いらいらしたりする気持ちをすこしも感じなかった。ちょうど列車が見えなくなったとき、ホテルの給仕が息せき切って駅へかけ込んできた。私を認めるやいなや、給仕は、どなりつけられはしないかと恐れるような様子をして、街の群衆にせき止められて抜け出てくることができなかったことを述べはじめた。彼が述べ終わったとき、私は彼に言った、『なんでもないよ。君はどうしようもなかったんだ。また明日のことにしよう。これはお駄賃だ。そんなにたいへん骨を折らせたのに、ほんの少しばかりですまないがね。』彼の驚いた顔には、満面に喜色が溢れていたので、私の出発が延びたことは即座に償われた。/…私の経験の最初の数週間、私はただ気苦労と怒りとだけを警戒していた。…ついに私はそういうすべての感情がさきに述べた怒りと気苦労という二つの根から生え出たものであることを確信するにいたった。〉

これは言い過ぎであろうとは思う。とはいうものの、「怒りと気苦労」については思うところがある。

まず、気苦労について。たとえば何人かで予定を決める際、なかなか返信が集まらないと決まらないことがある。それによって迷惑をかける相手のことを考えて、私は驚くほどイライラすることがある。しかし、そもそも返信など返って来た時が最速であるため、そこでイライラしてもエネルギーの無駄ではある。結果的に私が行うこと自体は変わらない。もちろん、多少は早く返事を出してくれた方が嬉しいことは確かであるが、過剰に気をもむことは、エネルギーの無駄遣いであるのは確かである。

他にも、何か仕事を頼まれていて、それを行わなければならないとする。まだ帰りの電車に乗っている最中から、「面倒くさいなぁ。アレもやんなきゃいけないし、コレもやんなきゃいけないし、考えなきゃいけないことがたくさんあるのに、どうしてこんなことまでやんなきゃいけないかなぁ。この仕事、相手がいることだから、どうメールを打ったら相手の気分を害さないか、考えなきゃいけないよなぁ」などと頭の中を回していることがある。しかし、電車の中でいくら回そうと、やること自体は大して変わらない。少なくとも、やる時間さえ決めてあれば、その時に私が、さほど不適切ではない反応ができることを、私は“知っている”。それならば、電車の中でぐるぐると回す必要性はないことになる。

「怒り」についても、私の場合、ほとんどがこの「気苦労」から出発することが多い。そうではない「怒り」も存在するものの、割合は滅法少ない。ならば、私の場合この「気苦労」に意識を集中させて、少しでも私の脳内メモリを「気苦労」が占有しそうになった際、“脇にどけておく”ことができれば、私の脳内メモリ残量を相当量確保することができることになる。
“気苦労を脇にどけておく”ことができるためには、“自分が結果的にどのような行動を行っているか”という点に関して、なるべく正確に把握している必要はあるのだろう。しかし、それがある程度正確に行われ、かつその行動が適切であった場合、「気苦労」を頭の中で無駄に回すことを回避することは可能である。

いつもイイカゲンな行動ばかりしている者にとっては意味のない方略かもしれないが、そもそも「気苦労」を過剰に行う者は、およそクソ真面目である率は高いので、その行動もさして外れたものではないのだろう。ならば、試してみる価値はある。

ちょっとやってみた限りで言えば、これは相当効果がありそうだ。少なくとも、脳内メモリの保護と残量確保のためには。


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