スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2013年度 秋セメスター 予定

秋セメスターの予定です。よろしくお願い致します。

2013aki2.png


スポンサーサイト

「明日死ぬとしたら」を想像することが難しいので、

CameraMagazine2013年9月号のpp.126-127に、写真家、ハービー・山口さん(1950年生まれ)のエッセイが載っている。ハービーさんは若いころ、イギリスに長期滞在している。最初、ロンドンに着いたころ、「どこを撮っても写真になるとさえ感じていた」という。しかし、「2、3年が経った頃だろうか。あんなに新鮮だった自分の周囲の物事が、あまりにも日常化し、僕の感受性は鈍り出した」。そして、「1枚のシャッターを切ることもない日が続いた」。

この状態から脱出するためにハービーさんがとった方法は、「『自分がロンドンに住めるのがあと1日しかないと仮定したら、一体僕はこの街の何にカメラを向けるだろう』という問いかけを自分に課すこと」だったという。

この感覚は、「あと一学期しか生きられないと想像してみてほしい。そして、君たちはその一学期間、良い学生として通学しなければならない。その時間をどう過ごすかを、考えてみてもらいたい」(スティーブン・コヴィー「7つの習慣」pp.183-184)という課題に近いかもしれない。極端な話、“明日死ぬとしたら”という、よくある仮定ではある。この課題を日記形式で提出させると、「両親に手紙を書いて、愛と感謝を伝え始めたり、人間関係がぎくしゃくしている兄弟・姉妹や友達と仲直りを図ったり」するそうだ。「短い間しか生きることができないと考えると、人の悪口、批評、嫉妬などの無益さがよく分かる」のは確かなのだろう。

マルクス・アウレーリウスが『自省録』の中で「あたかも一万年も生きるかのように行動するな。不可避のものが君の上にかかっている。生きているうちに、許されている間に、善き人たれ」(岩波文庫版,p.55)ともいっている。このタイプの文言は、探せばいくらでも出て来るだろう。気づく人は、遥か昔から気づいているというだけなのかもしれない。

ただ、実際に明日死んでしまうことをリアルに想像することはなかなか難しい。ここが問題である。知識として、“こう言っている人がいます”といくら言ったところで意味がない。私は、そういう意味で、ハービーさんの言葉はとても身にしみる、リアルな対象についての、リアルな感覚であるように感じられた。

引っ越す前に暮らしていた場所を久しぶりに通ると、どこもかしこも懐かしい。当時、写真をとっておけば良かった、そう強く感じる。それは、“どこにどの建物があったのかを比較する”とか、そういうことではない。その道を通っていたときの印象や感覚を、記憶の中だけでは再現できないからだった。契機が欲しい。視覚的な刺激というきっかけがあれば、もっと再生できるのに。そう感じた。

だから私は、今住んでいる町を、なるべく撮影するようにしている。良く通る道でも、たまに歩いている視野を撮影するようにもしている。あとは、息子を中心に写真を撮影するので、その際周囲がなるべく入るように撮影する、というだけではあるが、とにかく毎日カメラを持ち歩かないことにはどうにもならない。鞄には必ず、コンパクトカメラは入れておいている。

明日死ぬとしたらとか、死ぬことをそばに(mement mori)とか、抽象的過ぎて、どうしても“頭で”理解するだけで終わってしまう。シミュレーションするだけで終わってしまう。感覚とは、実感するとは、そういうことではない。もっと、肉体に迫ったものである。少なくとも、カメラのシャッターを押す、という行為は、私の手を使う。目を使う。歩くために足を使う。今日を逃したら二度と撮れない、という感覚で、シャッターを押し続ける。カメラを持ち歩き続ける。それは、とても身体的な実践である。そしておそらく、こういう実際の行動が積み重なってはじめて、「あたかも一万年も生きるかのように行動するな」という言葉が、ようやく重みを持つようになるのではないか。

「『今でなくても、将来いつでも撮れるんだ』これが写真家にとって一番危険な感覚だ」(ハービー・山口)。写真家ではなくとも、とても危険な感覚なのであろう。ハービーさんはあくまで、自分の専門外のことに言及しないようにしているだけなのだろう。その言葉の裏に、生きることそのものや、人を愛することなどを、おそらく込めているのだろう。そうでなければ、ああいう、どの写真をみてもそこに写っている人が幸せそうな写真というものは撮影できないだろうと思う。

ハービーさんの写真が芸術的なのかどうかは、私にはわからない。しかし、私はハービーさんの写真が好きである。
プロフィール

ina

Author:ina
水曜の会用 文書置き場

カテゴリ
写真保管庫
最新記事
月別アーカイブ
検索フォーム
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。